札幌高等裁判所 昭和57年(ラ)33号 決定
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【判旨】
本件記録によれば、抗告人は、相手方らが抗告人に対して有するとしている売買代金債権につき、その債務不存在の確認を求めて本件訴訟を提起したものであるところ、抗告人提出の疎第一三号証、同人の代理人弁護士畑中広勝に対する当裁判所の審尋の結果によれば、抗告人は、昭和五四年一二月ころ函館営業所を開設するとともに、相手方函館定温冷蔵株式会社を除く相手方ら四名(以下相手方ら四名という。)との間に売買取引を開始したが、右の取引開始に際し、抗告人と相手方ら四名間には、代金決済につき、買主である抗告人から売主である相手方ら四名に対し、毎月末日締めで、取引額が一〇万円以上のときは、翌月一五日ころまでに六五日後を満期とする手形を交付して支払い、取引額が右額に達しないときはこれを送金支払する旨の口頭による約束がされたのみで、その余についての取決めは格別なく、取引約定書の取交しなどもなかつたこと、抗告人は、右取引開始後、代金決済はほぼ右の約束に従い行つてきた(送金分は締切日の翌月末払い)が、手形による支払分については、支払地札幌市、支払場所北海道拓殖銀行北二四条支店とする為替手形の引受人欄に記名捺印をしたうえ前記相手方ら四名に送付し、満期にこれを決済してきており、現在抗告人から相手方ら四名に交付した為替手形は全部支払済であること、抗告人は、本件訴訟においてその不存在確認を求めている債務については、抗告人の函館営業所長丸山一彦が相手方らと通謀のうえ、抗告人と全く無関係になした取引分であり、従つて抗告人は右のような債務を負担してはいない(相手方函館定温冷蔵株式会社との間には現在まで全く取引がない)し、これについては前記為替手形の引受もしていないとして、今後主張、立証をしていく予定であることが認められる。ところで、商品の売買取引において、その債務の履行地につき格別の定めがなく、単に手形による支払の約束がされ、それに基づき為替手形の授受がされたとしても、それにより直ちに当事者間に本来の売買代金債務の履行地を手形上の支払地又は支払場所に変更する旨の合意が成立したものとするのは相当ではないと解される。従つて、右にみた通り、抗告人から相手方ら四名に対し支払地を札幌市、支払場所を北海道拓殖銀行北二四条支店とする抗告人引受の為替手形が交付され決済されてきたとしても、右の場所が義務履行地になるとすることはできない(のみならず、前記の通り、相手方らが抗告人に対して有するとしている売買代金債権につき、抗告人はその取引自体を否定し、それは支払のため為替手形の交付をした前記の債務とは全く関係がないものであるとして、相手方ら主張の右債務の不存在確認を求めて本件訴訟を提起しているというのであるから、為替手形上の支払地又は支払場所の記載により債務の履行地が定められ又は変更されるということは、本件訴訟においてそもそも問題になりえないということにもなる。)。そして、その他本件訴訟につき、その土地管轄が札幌地方裁判所であることを認めるに足りる資料はないところ、民事訴訟法一条、四条一項、五条、商法五一六条一項により本件訴訟の土地管轄は函館地方裁判所にあると認められるから、同法三〇条一項に従い本件訴訟は同裁判所に移送するほかないというべきであり、原決定の理由は明らかではないが結局においてそれは相当であるというべく、本件抗告は理由がない。
(渋川満 藤井一男 喜如嘉貢)